十数年前。
初めてお隣の国“韓国”へ行ったとき、「もうこの国に来ることはないだろう」と思った。
その少し前に行った返還前の香港が楽しすぎて、とても退屈に思えてしまった。
もちろん韓流の“は”の字もなかったとき。
その数年後、『シュリ』 という映画を観て、愕然とした。
アクションといい、切ないストーリーと言い、そのエンターテイメント性の高さに驚いてしまった。
これが、もう行かないとまで言ったあの国の作品か・・・。
これは日本もうかうかしていられないぞと思った。
そしてその後、津波のように押し寄せてきた“韓流”の波。
韓国映画・ドラマで定番なのが、“すれ違い” “親とのまたは兄弟との確執” “交通事故” “隠し子騒動” “周囲の要らぬ横入れ” “金持ちと貧乏” 等々であるが、今回はそれら必須項目から少し外れた“大人の韓国映画”を一部ご紹介。
これからの切ない季節にぴったり(のはず)。
秋の夜長にいかがでしょう。
『 美術館の隣の動物園 』
結婚式のビデオ撮影の仕事をしている主人公のアパートに兵役休暇中の見知らぬ男が突然やってくる。そのアパートの部屋はもともと彼の彼女の部屋だった。それぞれの事情が飲み込めない二人。それから奇妙な共同生活が始まってゆく。
けんかしながらも惹かれあうふたりが微笑ましく可愛らしい作品。ほぼすっぴんのシム・ウナが今までとは違う少しだらしのない女性を演じ、それが逆に魅力的だった。
美術館と動物園が隣同士の場所が本当に韓国にあるらしく、当時映画ファンがよく訪れていたらしい。
私の好きな韓国俳優、アン・ソンギも相変わらず渋い演技を見せてくれている。
『 春の日は過ぎゆく 』
我らがチャングム、イ・ヨンエとユ・ジテ主演作品。エンディング曲をユーミンが作曲したことでも有名。監督は、「八月のクリスマス」のホ・ジノ監督。
離婚暦のある年上の女性とまだ若き青年の恋愛を繊細に描いた作品。絵画のような美しい色彩でまとめられた映像と熱い国、韓国というイメージとは程遠い、繊細な心の動きや四季の移ろいに心奪われた。これを最初に観た当時は、ユ・ジテ演じる青年に肩入れした。が、後年再び観た時は、イ・ヨンエ演じる女性の気持ちにも沿えるようになった。風の音が静かに心をなでてゆく、そんな映画だった。
『 私にも妻がいたらいいのに 』
ソル・ギョング演じる銀行員とチョン・ドヨン演じる塾講師の何気ない日常のすぐそこにありそうな恋物語。最終的に恋人になる二人がとても微笑ましい。ここに印象的なシーンがある。塾が終わって、生徒が泣いている。「どうしたの」と彼女(チョン・ドヨン)が尋ねると、「先生に似ていると言われたの」と泣くその子。複雑な気持ちで、「全然似てない、かわいいよ」と鏡を見せながら慰める彼女に「ほんと?良かった!」と生徒が喜んで帰っていくシーン。黒板の字を消しながら「人生って厳しいわ」とつぶやく彼女に心底同情した。人生って厳しいんだわ・・・。
『 情愛 』
主演男性のカム・ウソンが好きだったので、思い切って観てみた作品。
恋愛主義者の男と、結婚と恋愛は別という女のラブストーリー。これは完全に大人の映画。恋愛と情事のはざまで泳ぎ続ける男女の物語。オム・ジョンファの美しい裸体が官能的。でも、それだけではない。割り切っていた二人の感情が割り切れなくなる時、悲しみが生まれる。どうすることもできない感情を抱えたまま日々は流れてゆく・・・。きっとこの先もずっと。
後編へ続く・・・